立ち飲みとテイクアウトを、予約困難店coyacoyaで楽しむ。
何かを始めようと決意する時、決して遅過ぎることなんてない。
50歳の誕生日に、これからは自分の好きなことだけをして生きようと決めたcoyacoyaの小弥太さんを思う度に、いつもそう思う。それまでの正業は車屋。どこかの店で修行経験した訳でもない。それ以前に、誰かに料理を習ったこともない。
でも、無類の食いしん坊で、好きな味に出会うと通い詰め、自分でも何度もその味に挑戦した。30年間、仲間が集まるたびに厨房に立ち、みんなに料理を振る舞った。その味は評判を呼び、だんだん料理への情熱が止められなくなった。
恵比寿と広尾の真ん中あたり、今は恵比広エリアと呼ばれる場所にコヤタさんの店がオープンしたのは2018年。その後、渋谷の人気店、酒井商会の2号店である創和堂がオープンし、今は注目エリアとして知られる。
だが、その始まりは、coyacoyaの誕生だった。
シンプルで無機質なグレーのカウンターは、ガスコンロの上に並ぶ中華鍋がなければ、まずチャイニーズには見えない。セラーの中には、選び抜かれた自然派ワイン。ボトルなら自分でセラーから選び、グラスなら好みのものをコヤタさんが選んでくれる。もちろん、ドラフトや赤星、紹興酒だってある。
ひと皿、ひと皿に、店主の創意工夫が散りばめられたメニューは、ほぼ1000円を切る町中華プライス。それなのに、味と盛り付けは高級中華に引けを取らず、しかも美しく、客たちはこぞってSNSに投稿し、店は瞬く間に「映え」を求める美女たちで一杯になった。その噂を聞きつけて、多くの男たちも通い出す。
coyacoyaは、程なくして予約の取れない店になった。
しかし、予約困難店というイメージはコヤタさんの望むものではなかった。もっと気軽に楽しんでほしいし、敷居なんて低いに越したことはない。
予約を辞める、1回転目だけは並んでもらう。色んなチャレンジを繰り返している中、街はコロナ禍に巻き込まれていく。
その時、coyacoyaが選んだのは、テイクアウトと立飲みだった。週に4日(水木金土)の午後、15時から4時間だけ、店の窓や入り口をオープンにして、予約なしで気軽に飲める立飲み屋を開店。その時間にテイクアウトを取りに来る人もいる。もちろん、テイクアウトのついでに少しだけ飲んでもいい。
メニューは立飲みに合わせて、少数精鋭。人気の細切り干豆腐や、春巻き、よだれ鶏、麻婆豆腐、もちろん〆の名物、香港風素焼きそばだってある。
そして、今回新たに始まったメニューがcoyacoyaならではの、焼売のバリエーションだ。栃木のもち豚の肩ロースを贅沢に使った焼売は、常時5~6種類。迷っていると、「少しずつ盛り合わせてもいいよ」と声が掛かる。
干海老と干椎茸を使った「普通のオイシウマイ」、百合根と百合の花(金針菜)、レモングラスとパイマックルが入るタイ風、ごぼうと紫蘇、仔羊とクミン、今の季節ならふきのとう。
夏が明けた頃だろうか、東京の街が通常営業になる頃には、焼売はオイシウマイと仔羊、タイ風だけになるらしいから、色んな味の焼売を摘みながら酒を楽しめるのはコロナ禍だけの特権だ。
低音調理で仕上げ自家製辣油がかかる、よだれ鶏も、茹で麺用の中華麺を丁寧に蒸し揚げ、さらに天日に干したcoyacoya名物の〆もやっぱり見逃せない。
そして、いちばんの人気メニューは軽妙洒脱でちょっぴりエロい、コヤタトークだ。「大した店じゃない、素人の料理だから」、微笑みながらワインを引っ掛けるコヤタさんは、ただ人を喜ばせるため、今日も早朝から仕込みを始める。
coyacoya(コヤコヤ)
東京都渋谷区広尾1-6-6 第1三輪ビル1F
TEL:03-6456-4458